どつぷり首まで浸かつてしまい 僕は 何処にもいけません
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ちょいとした用で彼女の家に行った時のこと。 そんなに長居するような用件でもなかったし 少しお話するだけで事足りるはず 玄関先でおいとましようとしたけれども。 「まあ お茶でも飲んでくつろいでよ」 だなんて 強引に無理無体 部屋の中に僕を引っ張り込んで お茶菓子なんか出してくれやがる。 君のそんなところ どうかなあ なんて思いつつも 出してくれたお茶請けのお菓子 彼女の手作りクッキーのようで 食べてみると存外に美味い ヒョイヒョイつまんでいるうちに小皿に盛られた十二個のクッキー あっという間になくなっちゃって。 「あら もうたべちゃったの」 ご馳走様でした。 ところで そろそろ本題に入りたいのですが えっと 実はですね 「それよりアナタ 『蠱毒』って知っていて?」 え あ なんですって? 「『蠱毒』 よ。 知っているの知らないの」 ええっと ある程度は知っていますよ。 僕の知っているのは たくさんの種類の毒虫なんかを 一つの壷の中に入れて互いを食わせあって 最後に生き残った一匹の虫を使って呪いをかける そんなやつですよね たしか。 「ふぅん よく知っていたわね」 で 蠱毒 が どうかしたんですか? 「私の働いてる職場の話なんだけれどね」 ああ あの中華レストラン 「『自然の恵み たくさん』ってキャッチフレーズが売り物だから まわりに木とか草とかが結構生えてるわけよ」 うっそうと繁っていましたね 「で そんな自然がタップリな環境だと 虫もタップリ涌いてくるのよ 小さな羽虫や甲虫 ムカデやクモの類まで色々。 店に中に入れないようにはしてるんだけど お客さんの出入りのときや窓を開けたりしたとき どうやても入ってきちゃうのよね」 そりゃ 大変ですね 「大変ってもんじゃないわよ この間もお客さんからクレームがあってさ。『おい! この八宝菜の中に 虫が入ってるぞ!』ってね。 みると確かに小さいカメムシが入ってたのよ まあ その場は私が 『あ お客様 申し訳ありません 八宝菜ではありませんでした これは九宝菜です!』ってナイスなフォローを入れたおかげで事無きを得たけれども」 いや 事無きを得ていないんじゃないかな 「とにかく。 店内で虫を見つけ次第 除けなきゃいけないんだけれど 私を含む 店の人全員が 虫 苦手でね ティッシュで包んで捨てるなんて出来るわけないし 飲食店だけに殺虫剤を撒くのもどうかと思うし」 じゃあ どうやって虫を捕まえて除けているんです? 「それはねえ ハンディの小さめな掃除機 あるでしょ それで見つけ次第 吸いこむの」 へえ それはいいアイデアですねえ 「羽虫やクモ ムカデもたくさん吸いこんだし 小さな蛇や蜥蜴も吸いこませた人もいるわね。 で その掃除機なんだけど 最近 吸引力が弱まってきて ついには何にも吸いこめなくなっちゃった」 壊れたんですか? 「壊れたとかそんなんじゃなくて。 実はね もう3年くらい 中に溜まったモノを 出してないらしいの」 中に溜まったモノって えええ な なんでです 「だって 中には 虫しか入ってないのよ! 店の人全員が虫苦手だし 掃除機を開いたら今まで吸いこんだ虫が全部 デロリとでてくるって想像したら どうしようもないじゃない?」 そりゃ そうですが 「で とりあえずその掃除機をどうしようかってことになってね」 どうなったんですか? 「『負けた人がなんとかするジャンケン大会』よ。 で コレが! 負け抜いた人に贈られた 呪われた掃除機!」 えええええ アナタが 負けたんですか! 「アンタになんとかしてもらおうと思ったけど 何度連絡しても捕まらないし 仕方ないから 泣くの我慢しながら掃除機の蓋を開けてみたの そしたら」 そしたら? 「たくさんの虫がぎっしり詰まってるかと思ったら そんなことなかった。 掃除機の中から出てきたのは ちょっとした骨の欠片くらいと 握りこぶしくらいに大きい 虫が一匹。 それも 脚が十二本ある 蜘蛛」 それってもしかして 「そう 思わぬところで蠱毒完成ってわけよ」 で その 虫はどうしたんです? 「せっかく完成した蠱毒なんだから 呪いに使ったに決まってるじゃない」 呪い! や やめたほうがいいですよ 人を呪わば穴二つといいますし ロクなものじゃないです 「そんなこと云われても もう呪っちゃったもの もう手遅れよ ほら コレを御覧なさい」 と 彼女が見せてくれたモノ ガラスの瓶詰め 密閉された 脚のもぎ取られた 蜘蛛の胴体 まだ生きてピクピク動いている 「この蜘蛛からもぎ取った脚 十二本を 一本一本 手作りクッキーに練りこんで食べさせたのよ。 私が気づいていないとでも思っているのかしら 私に別れ話を切り出しにきた馬鹿な男に 二度と解けない呪いをかけてやったのよ」
by khem_mark
| 2004-09-22 00:18
| 彼女のはなし
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