どつぷり首まで浸かつてしまい 僕は 何処にもいけません
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僕と同じ職場 同僚の彼がこの春に購入したという建売一戸建て住宅は 町の真ん中 小さな山を切り拓いて出来た新興住宅地にあり。 たしか 僕と同じくらいに低賃金の彼 よく家なんか買えたなあ なんて彼に聞くと。 「なんでも 土地主が死んで長い事放置されていたあの山を町が安く買いとって 福祉事業とかなんとかの一環で お金が無い人にも手が届くようにって 手軽な値段で分譲してたからね ちょっとばっかりローンを組んでさ。 そのうち 職場のみんなをホームパーティにご招待するよ うちのワイフの手料理を食べさしてあげよう」 なんてことを言って彼は照れたように微笑んで。 結婚もしてないくせに よく言う。 聞けば 他部署でも取引先の業者さんにも 彼と同じ新興住宅地に家を買った人が何人かいるとのこと。 そんなに手ごろな価格ならば僕も買ってみようかなあ などと思っていたのでありますが。 ある日の事です。 彼が無断欠勤しました。 電話を入れても連絡付かず けれどもその日はそんなに差し迫った仕事も無くて 上司も 「仕方ねえなぁ 明日出てきたら とっちめてやる」 などと放っておいたのであります けれども。 次の日も彼は出社せず 相変わらず電話にも出ず。 なにかアレな事でもあったのかと流石に心配になってきていると 上司が他部署の同僚とヒソヒソ話をしています。 「お前んとこでもか」 「うん 昨日から 連絡がとれない」 盗み聞きしたところ 他の部署でも彼と同じように無断欠勤して連絡の取れない人が何人もいるそうで 確認してみたらばそれらの人々は皆 件の新興住宅地に住んでいる人ばかり。 取引先の業者さんに電話したところ やはり その新興住宅地に住んでる人が無断欠勤しているそうで これは なにかアレなことになっている らしい。 厭な予感がしてきたので仕事もそこそこに切り上げて 職場の何人かとでその新興住宅地に行ってみると 妙は違和感 何処かが変 静か過ぎる 生活音の まるで聞こえない事に気が付いた。 と、とにかく 彼の家に行ってみようよ と歩き出すと 道の向こう 人が立っている。 散歩の途中と思われる老人が身体をピンと伸ばし 突っ立っている。 やあ 人が出歩いているって事は 思っていたほど深刻なこと ないのかもしれない。 などと思ったのも束の間 やっぱりおかしい あの老人 少しも身動きしない ピクリとも動いていない。 近づいて揺さぶってみたけれど なんの応答も無く ガチガチに硬直していて けれども浅い呼吸はしていて辛うじて生きている。 こりゃ すぐに救急車を呼ばなきゃ駄目だ と連立ちの一人に頼んで連絡をつけてもらい ますます持って厭な予感のつのりつつ 彼の家へと行きますれば。 彼の家 玄関 まさにドアを開けた態勢のまま ガッチガチに硬直している彼がいて 揺さぶっても耳元で叫んでも頬を張り飛ばしても なんの反応の無く。 とにかく救急車を呼び 他の無断欠勤した人の家に行ってみれば 同じように 家の中 その家族全員 硬直したまま突っ立っている。 警察にも通報して調べてもらったところ その地区の住民全員 硬く堅く固まって 死んではないけど生きてもいない状態で すぐさま全員回収されて 病院送りとなりました。 警察は毒ガスなどの可能性ありなどといって一帯を封鎖し 残された僕らは軽い事情聴取をされたあとに放っぽりだされ あとはどうしようもなくて 帰るのもなんだし とりあえず 彼の運ばれた病院に行って容態を確認してみようということになりました。 病院に行き 受付の所で彼がどうなったかを聞こうと待合室の前を通ると なんだ さっき救急車で運ばれた筈の彼が 待合室の椅子に腰掛けて新聞を読んでいやがる。 「なんだ きてくれたのか」 きてくれたのか じゃない。 救急車で運ばれた君が なんでここで悠長に新聞なんか読んでいるんだ。 「ああ 救急車の中で目が醒めたんだ。 ビックリしたよ 出社しようとしてた筈なのに なんで救急車の中なのかってね。 で 検査したけど 一応 異常はないらしいし 別に悪い所もある訳じゃないし」 まあ 異常がないのなら別段問題はないのだけれど 一体 何があったんだね。 「何があったって そりゃこっちが聞きたい話だけれども。 ええっとだな 出社しようと玄関のドアを開けたときだったなあ いきなり後ろから 『これも一本』って言われてさ 誰だ!って振向こうとしたら 凄い力で肩を押さえられて 身動き取れなくて 気が遠くなってな。 気が付いたら救急車の中だった」 同じ病院に運ばれてた他部署の同僚達も 順繰り意識を取り戻したようで 聞いてみたらば同様に 『これも一本』 と押さえつけられた との事。 みんな 身動き取れなかった間の事はまるで憶えておらず 調べた結果 身体の何処にも異常は見当たらず。 かえって「充分に眠った後みたいで気持ちがいい」なんてことを言い出す始末。 運ばれた住民全員にも異常は見当たらず 毒ガス等の痕跡もなく 警察では『集団ヒステリーの一種?』ってなことで片が付いたようです。 あれから一年経ち 新興住宅地では 気味悪がった数軒が引っ越した他はこれといって変なことは起こらず 病院に運ばれた人達もいたって普通に暮しています が 僕の同僚の彼に少しばかり気になるところがあるので 図書館で郷土の歴史を紐解いたり等の色々をしたらですよ。 かの土地 新興住宅地に切り拓かれる前。 小さな山は 元々禁足地だったらしく その山の木や動物を勝手に如何こうするものには その山の主の祟りがあるようで。 更にはあの日 彼が無断欠勤した日 身動きの取れなくなっていた日というのは 山の主が 山に生えている木を勘定する日だったらしく。 昔 その日に山に入った猟師が 山の主に捕まって木の一本として勘定されて そのまま木にされた って言い伝えもありました。 「ふうん。 じゃあ 僕ももう少しで 木にされていたところだったのか」 と僕の話を聞いて頷く彼。 あんなことがあったというのに 彼は別に引っ越すつもりはないらしく。 「なんといってもせっかく買った土地家敷だし せいぜい一年に一度身 動きが取れなくなるだけじゃないか もし あの時みたくに無断欠勤した日があったら また固まってると思うから 君 助けにきてくれよ」 なんて笑いながら髪を掻き揚げる彼の頭 あの時の後遺症か 髪の毛に葉っぱのような緑色が混じるようになった。
by khem_mark
| 2003-12-11 22:22
| 怪
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