どつぷり首まで浸かつてしまい 僕は 何処にもいけません
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彼女の母親が死んでからと言うもの 彼女 ゲッソリとやせ衰えてしまって。 彼女の知人である僕も 彼女のやつれぶりにはビックリしてしまうほどで どうしたんだい君 お母さんが死んでしまったらこんなになっちまって ご飯を食べていないのかい お母さんがご飯を作ってくれないと食べられない なんてこたあないよねえ 「ご飯なら食べてるよ ただ 眠れないだけ」 へえ そんな お母さんが亡くなってショックなのはわかるけど そんなに眠れなくなるほど思い詰めるものでもないよ でないと お母さんが浮かばれない。 「そんなんで眠れなくなるほどセンチメンタルじゃないわよ ただ 眠ろうとしても 眠らせてくれないの」 眠らせてくれないって 何にです 「何にって コレをみてごらんなさいよ」 彼女 クルリと背を向け 上着を巻くって素肌を見せて あ うわあ なんか 青痣 引っ掻き傷 噛み傷 だらけじゃないですか 新手のプレイですか 「プレイってなによ あんたの思ってるようなそんなんじゃないわ。 夜 寝ようとするとね 何かが私を踏んだり蹴ったり噛んだり引っ掻いたりして冷たいもので撫でたり 眠らせてくれないの おかげでこんなに傷だらけ」 これは 君 随分と業の深いこと したんじゃないですか 「業の深いって なによ」 だって 君の傷跡見るとわかる その引っ掻き傷は猫の爪だし 噛み傷は 犬だ 踏まれて出来た青痣は 動物の足跡の形をしている。 「ああ なるほど。どうりで」 どうりでって? 思い当たる節があるんですか 「私が小さかった頃ね あんまり覚えちゃいないけれど 近所の犬とか猫とか小鳥とか たくさん殺したみたいなの」 こ 殺したって 犬とか猫を? 「うん たぶん 面白半分の何となくでね。 物置小屋にあった農薬を飲ませて 殺したみたい」 な なんてことを じゃあ 君が昔に 面白半分で虐殺した動物達が 君に仕返しを 「多分 そうでしょうねえ。 でも 今更って感じじゃない? 殺してすぐならまだしも なんで十何年もたってから仕返ししにくるのよ」 それはきっと 君のお母さんが亡くなったからだよ。 君のお母さん ああ見えても 凄い人だったんだよ 僕も何度か憑かれて困ってたときに助けてもらったこともある 「へえ そんなのはじめて聞いた。 で どうすりゃいいのよ 私のお母さんが死んで 邪魔者がいなくなったからって昔の仕返しにきた犬とか猫とか どうにかしないと わたし このままじゃ」 このままじゃ 近いうちに死んでしまう ね 「死にたくない」 なに 方法がない訳でもない 試してみる価値はあると思うけれども。 「なんでもいいから 助けてよ」 うん じゃあ 用意するものがあるから 君の家で待っていてくれよ 準備出来次第 いくから。 と 彼女の家に持っていったもの 袋一つ 「なによ それ」 サカキ ヤドリギ トベラ ナナカマド等などの枝を燃して灰にしたものだよ これを君の寝る布団の四隅 敷いた新聞紙かなにかの上 撒いておくといい。 効き目があったら 今日の夜は眠れると思うよ じゃあ また明日。 やあ どうでした その顔を見ると 久しぶりに眠れたようだけれど 「うん ぐっすり。 変な冷たいのに撫でられた気はするけど 踏んだり蹴られたりはなかったから ゆっくり眠れた」 ソレはよかった で あの灰 どうなってました 「それがスゴイコトになってて」 どれ ちょいと拝見… うわあ すごい 「すごい数の 足跡 でしょ」 布団の四隅に敷かれた新聞紙の上 撒かれた灰 犬 猫 兎 蛙と思われる足跡が びっしり隙間もないほど残っていて 君 ほんとに すごい数の動物を虐殺していたんだねえ 「記憶に残っちゃいないけど この数にはビックリね。 で この足跡 なんなの?」 うん この灰についた足跡はね 幽霊の足跡だよ この灰は特別製でねえ トリモチみたいに引っ付いて 幽霊を捕らえる 「じゃあ この足跡の数だけ 今も」 今も この新聞紙の上に 犬とか猫とかの幽霊が ギュウギュウにひしめいてるって事だろうねえ 「うわあ ど どうするのよ これ」 どうするもこうするも また灰を袋に詰め直して 晦日の祓のとき 川に流して終わりだよ それで何の後腐れもないはずだけれども。 「じゃあ もう 大丈夫なの?」 多分 ね。 でもアレだよ まだ幽霊が残っているかもしれないから まだ何度かは この灰を撒いておくといいよ。 「うん ありがとう これでやっと安心して眠ること できるわ」 と 彼女 安堵のため息もらして。 けれども僕 次の日 様子を伺いに行った彼女の家 布団の中 溺れて死んでる彼女を発見します。 布団の四隅の新聞紙 灰の上には足跡なんか なんにも残っていなくて。 そんな断末魔に歪む彼女の顔 青ざめた唇 張りついていたのは 何枚かの魚の鱗 なんだ 君 犬猫兎蛙とかだけじゃなく 魚類も虐待していたのかい たしかに魚じゃあ 足跡のつきようが ないものなあ
by khem_mark
| 2004-10-10 00:40
| 彼女のはなし
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