どつぷり首まで浸かつてしまい 僕は 何処にもいけません
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目が醒めた。 わたしはベンチに座っている。 いつの間に微睡んでしまったのだろうか。 顔を撫でようと少し 膝の上の右手を動かす。 『動くのは少し 待ってくれないかな』 真向かいのベンチに男が一人。いつの間にか腰かけていて。 サラサラとスケッチブックに何かを描き込んでいる様にみえる。 どうやら わたしを描いているようで わたしは自分の寝顔を勝手に描かれたことに少し腹が立った。 わたしのムッとした顔を読みとったのであろうか 男はニコニコしながらスケッチを見せてくれた。 其処には少女の絵だけが描かれている。 『キミと キミのいる風景に とても似合う少女人形の絵を』 そう言うと男はパラパラとページをめくると同じ様な少女の絵が何枚も描かれていて。 『もう少しで完成しそうなんです もう少しだけ 其処にいて下さい』 何か云おうと口を開けたけれども 声は声にならず 口が僅かにパクパク動いただけで。 『疲れているんですよ しばらくジッとしていた方がいい』 不意に頭の中がポッカリと靄に覆われた気がして。 少し微睡んだだけだと思ったのにこの男は 何枚もスケッチしたの か わたしはいつから此処にいるんだろう そもそもなんで こんなトコロにいるのだろう わたしは 誰だ 『ジッとしているのは退屈であるだろうから 退屈しのぎの お話をしましょう』 『過去を変えること 出来ると思いますか?』 『現在の自分というのは過去の自分の延長線上にある』 『現在の自分が過去の自分の積み重ねである以上 過去を変えるということは現在の自分を否定することになるんです』 『しかしながら過去というのはアヤフヤなモノでネェ キミにとっての過去というのはキミとキミを知る人の記憶の共有でしかないんですよ』 『たとえば過去のキミが過去のキミである事を証明するのに必要なモノ 昔のアルバムとか日記とか』 『あるときソレ等が全て無くなってしまった場合 キミの過去は過去のキミである事を証明できると思うかい?』 『そしてキミの過去を証明する術のない現在のキミは現在与えられた情報から過去を推測するしかない』 『するとだ ソレを事実であると仮定し その仮定の延長上に過去のキミが存在する以上 ソレが現実であるのだよ』 フッと 途切れかけた意識を埋めるように止め処もなく紡がれる男の言葉は わたしの脳髄に絡まり纏わり眩暈すら憶えて。 気が付くと 男が不思議な色の眼でコチラを視ています。 『ほら 出来た 可愛らしい少女人形の絵 みたまえよ コレが今のキミの姿』 この少女人形の絵がわたしの姿であると 彼は云っているのでしょうか。 『僕は今 君に姿を与えたのです それに 君に似合う名前をボクが付けてあげるから』 彼はソッと手を差し出すと続けていいました。 『僕の家で 一緒に暮らしましょう』
by khem_mark
| 2004-09-15 00:54
| 変
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