どつぷり首まで浸かつてしまい 僕は 何処にもいけません
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「例えるならば そうだなあ この 今持ってる 玉子の殻を割らずに中身だけを取り出す方法 だよ」 と わたしの目の前 片手に玉子を弄びながら彼は言いました。 「そんなの出来るわけない って顔 してるね うん そんなの 普通は出来ない。 三次元の世界じゃあ 無理だ でも 方法を知ってさえいれば なんの雑作もないことなんだよ ねえ」 彼 なおも玉子を弄んで揺すり揺すりして 「空間における次元っていうのは 方向の自由度のことだよ。 零次元は点で 一次元は線 二次元は面 三次元は立体だ。そうだねえ ここに 紙の上で生活する二次元の生き物がいたとしようよ この二次元生物を閉じ込めるには 一次元であるところの線でグルリ囲ってしまうと その生き物は その線を越えること できないよね。 じゃあ次元が一つあがって 三次元であるところの僕らの世界で同じことを考えてみよう 僕らの周りにグルリと線を引いて囲ったところで それを跨ぎ越す事が出来るから閉じ込めることは出来ない 閉じ込めるには 二次元の面で囲まなきゃいけない この 玉子のように ねえ 中身であるところの黄身と白身は 殻という面にぐるりと覆われてるから 殻を割らないことには取り出すこと 出来ない」 彼 何処からかコップを取り出し 目の前 置いて 「つまりですよ 二次元では一次元の線によって 三次元では二次元の面によって その次元より一つ低いモノで閉じ込めることが出来る すなわち 次元を一つ上げること 四次元の世界では 二次元の面で囲まれた玉子の中身は 殻から透き抜ける」 ゆすりゆすり ぼとり 黄身と白身 コップの中 落ちて 「ほら こんな具合に ねえ ごらんよ 玉子の殻 何処も割れていないだろう?」 傷の一つもない玉子を彼 コップの縁にコツンとぶつけ 殻を割っても 中身は空っぽで 「いまいるココ 幅奥行き高さの三次元にもう一つの要素を加えた一つ上の次元じゃあ 殻で遮られていようが関係なくソレを抜けることができる それどころか 距離も時間も関係ない 今ではない時ここではない場所のモノ 見ることも出来るし触ることも出来る」 まあ 触ったりするのには特殊な条件付けが必要なんだけれど なんて 彼 独り語ち 「ところで さ 三次元が四次元に足りないもう一つの要素 君 なんだと思う? アインシュタインはソレを時間であるとして 三次元の空間プラス時間で四次元の『時空』と考えたとかそうでないとか。 でも僕はソレとは別のものを考えたんだよ それは これだよ」 彼 右手をペタリ 鏡面に押し当てて 「そう 僕の定義したもう一つの要素 それは《鏡》だよ。それを如何するとかこうするとか まあ 難しいことを考えなくてもいいよ 要は 《やったらできた》 だ」 彼 鏡面 右手に続いて左手も押し当て 「鏡ってのは昔から不思議なものだと云われているよ ガラドリエル奥様の水鏡は過去にあったこと現在あることこれから起きるかもしれない事を示すというし 真夜中 口に刃物をくわえて月明かりに光る水面を覗くと 未来の恋人が見えるというし。 スノークのおじょうさんとフィリフヨンカが一緒にやったおまじないにも 足踏みしながら七回まわり 後ろ向きに井戸まで歩いていって振り向き井戸の中覗くと 結婚する相手が水の中に見える っていうのがあるし。 まあ これらは見えるだけで触ること できないんだけれど。 僕の方法だと 見るだけじゃあない 触ることも出来るし こちらに持ってくることも出来る」 彼 鏡面に押し当てた両手 ぐい と押し込み 鏡面の向こう側から此方側につき抜けて 「僕 この方法を知ってね まずやってみようと思ったのが さっきの話によくある未来の恋人 結婚相手を見てみよう ということなんだ いや 見るだけじゃダメだ 彼女を捕まえ コッチにひっぱりこまなきゃ 気が済まない」 彼 両手 鏡の縁に掛けて 鏡面 どんどん顔を近づけて ヌルリと抜けてきて 「君は僕の話を聞いた 鏡越しに距離や時間を超越できることを知った それが鏡の向こうの君に触れるために 君を捕まえるために必要な条件付けだよ というわけで 初めまして今晩は 僕の約束された 遠く離れた未来の花嫁 やっと君をつかまえること できた」 ニョキリ 鏡面から上半身伸び出た彼 わたしを捕まえ 鏡の中に引きずり込んだ
by khem_mark
| 2004-09-13 00:56
| 怪
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