どつぷり首まで浸かつてしまい 僕は 何処にもいけません
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今日の出勤は夕方からなので 部屋でゆっくりしているとですよ ドアをガンガン叩く音 やあ 誰だろうとおもって開けてみると 今は離れて暮らしている 僕の双子の兄が なんだかやたらと長い箒を持って仁王立っているのでございます。 「大変だ! 大変なことに気が付いた!」 やあ 兄さん どうしてこんなところに… えーっと お久しぶりです 大変って なんですか そんな長い箒なんて持って 何が大変なんです 「なに…? よく聞こえなかったけれども… 長い…箒と云ったか? コレが…! 箒だって? おやまあ… お前は 相変わらず モノを知らないのだなあ」 や 久しぶりだってのに いきなり 随分なご挨拶じゃないですか で その 手に持ってるソレが 箒以外の何物だってんです? 「煤男様に決まってるじゃないかッ!」 ススオトコサマ? 「ああ やっぱりお前は 煤男様のこと 何にも知らないのだなあ… フフン 煤男様のこと 知りたければ 特別に教えてあげてもいいぜ?オイッ!」 ススオトコだかなんだか知りませんが 僕には ただの長い箒にしか見えませんよ? 「浅はか…ッ! なんて思慮の浅いんだ! ああ しかしこの俺が 優しくて忍耐強いこの俺がッ! 無知無能な貴様に 煤男様の何たるかを きっちりと教えてやるぜ!」 いや 別にいいですよ そろそろ僕 仕事にいく準備もしなきゃならないし 「貴様 これが箒だと云ったが 箒の呪能は知ってるか?」 あ あの 僕の都合を無視しないでいただけますか 「…知ってるか?」 うー 逆さまに立てると嫌な客を追っ払える とか そんなのですよねえ 「ふふん 知っているのはソレだけか」 あ あと 安産の神さまです 箒の『掃き出す』って機能から お産の重い時には妊婦のお腹を箒でなでると赤子が胎内からすっと出てくるっていいますね あー あと 『魔を掃き出す』ってことで 魔除けとしても使われます お葬式の時には ホトケさんの枕元に箒を逆さにして立てておきます 猫が死体を踊らせた時には箒で叩くといい とも云いますね あとは 出棺した後 すぐ箒で掃き出さないと 魂がいつまでも家の中に留まる とか そんなのです。 「お産と葬式 つまり生と死の境には箒がある 境と云えば 塞の神だな 村の境に奉られた塞の神は悪霊の進入を防ぎ さらには安産や縁結びの神様でもある あら不思議 箒と同じではないかッ!」 えーっと それで ススオトコってのには どんな具合で関係してるんですか 「いいか? 明日は12月13日! 全国煤払いの日! お正月に年神様をお迎えするためにする煤払い そんじょそこらの箒じゃあ 役者不足! そんな煤払いの日専用につくられた特別製の箒! 箒の中の箒! 1年の穢れを祓う為のエリート呪具! それがコレ! 煤男様であるぞ!」 なんだ つまり 大掃除用の箒 ってことですよね 「なに! 不遜だぞバカ殺すぞ! 煤男様に謝れ!」 お 落ち着いてください 落ち着いて その箒 いや ススオトコ様が凄いらしいことはわかりました わかりましたので 「わかったのならいいのだ ふふん」 で 兄さん 今日 僕ん家に来たのは そのススオトコ様の話をしに来たんでしたっけ? 「あ ああ そう 大変なことに気が付いた! 付いたんだ! ソレを無能なお前に教えてやろうと思って はるばる遠い彼の地より遠出してきたのだ!」 チッ…! それで 何に気づいたってんですか? 「俺な 明日の煤払いのためにな 煤男様を作ろうと思って 色々と文献を当たってたのだ」 や ただ 竹竿の先っぽに藁束を巻きつけるだけなのに 文献を? 「そしたらだ 見つけたんだよ『奥州秋田風俗問状答』!」 うわあ 無視された 「『煤取につきたる行事のこと。(中略)一丈ばかりの竹の末へ藁一把を結付て天井までくまゝゞを拂ふ。この竹を煤男と申す(中略)その煤男を煤を仕回ふて後戸外の雪へしかと立て置く也。春に来て柳の枝を切て其四邊へ垣の如くしかと立て、枝こへ横槌竪槌なんどを下げ候、田へ鳥下りぬ厭勝と申す(以下略)』って事が書いてあった」 あ あの 何を仰ってるのか サッパリなんですが 「つまり! 役目を終えて外に立てられた煤男様は 春になると 田んぼの害鳥を追っ払ってくれる って事だ」 ああ 案山子みたいなものですか 「そう! ソレだ! 俺が気づいたのは ソレ!」 それ? 「案山子を英語でいうと なんていうか知ってるか?」 えーっと 確か スケアクロウ でしたっけ? 「ふふん」 … で それが? 「ッ! 貴様ッ! まだ分からないのか!?」 や わかるもなにも 「いいか? 煤男って 何度も何度も云ってみろ そしたらわかる筈だッ! さあ!」 ……煤男煤男煤男煤男煤男煤男煤男煤男煤男煤男煤男煤男煤男煤男煤男煤男煤男煤男煤男煤男……もういいですか? 「わかったか?」 いや 全然? 「低能にもほどがあるぞ間抜ッ! いいか? 俺の云うこと よく聞いていろッ! 煤男 すすおとこ ススオトコ ススオトコー ススォトコゥー ススァクオウ スクェアクォウ スケアクロウ スケアクロウ スケアクロウ……ほら!」 ほら!って云われても… 「どうだ スゴイだろう!」 あの 兄さん? 兄さんの気付いた大変なことって コレですか? 「当たり前だ ソレ以外になにがある?」 あの 話はソレで終わりなら 僕 仕事に行かなきゃイケナイから もう出るよ。兄さんは お願いだから部屋の中でジッとしていてくれないか あとで施設の人に連絡して 兄さんを迎えに来てもらうから。もう 勝手に施設を抜け出してきちゃあ 駄目じゃないか兄さん。
by khem_mark
| 2003-12-12 01:45
| 双子の兄のこと
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