どつぷり首まで浸かつてしまい 僕は 何処にもいけません
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彼は彼女と結婚しました。 彼女は素敵な屋敷に住んでいて 彼は彼女の屋敷に一緒に住むことにしました。彼が彼女の家に引っ越してきた時 彼女は彼に「この家のものは何でも好きにしてもいいわよ この家のどの部屋も自由に使っていいわよ けれども 鍵の掛かってるあの地下室だけは使っちゃいけない 中に入っちゃいけない 約束よ 絶対」と云いました。 彼は彼女にそう云われて うん と頷いてはみたものの けれども気になって気になって なんとか地下室を覗いてみようと思ったけれども 地下室の鍵は彼女が持っていて 彼には鍵を開けることが出来ません。 けれどもある日 彼女に 遠くへ出かける用が 出来ました。「いい 私はこれから出かけるけれど しばらく帰れないと思うから あなたにこの屋敷のマスターキーを預けます 一人で寂しいなら 友達でも招待するといいわよ あと 絶対に 地下室に入ってはいけないからね」 そういって彼女は出かけました。 その日の内にヒマを持て余した彼は 女友達を呼んで 一緒にお茶を飲みながらお話します。 そのうちに なんとなく 地下室の話になって 女友達に「いいじゃない 鍵があるなら開けてごらんなさいよ 中を覗いてみるだけなら ばれやしないわよ」と囃し立てられ 勢いづいた彼は 女友達と一緒に 地下室を覗いてみることにしました。 「まさか アオヒゲのお話みたいに 女の死体があるってんじゃないでしょうね」などと女友達におどかされたりしながら 彼は地下室の鍵を開けました。 ガチャリ。 地下室のドアをあけて 部屋の照明スイッチを入れてみて 彼は拍子抜けしました。 部屋の中にはバラバラの死体とか血みどろの鉈とかそういうのは何にもなくて ただ テーブルがあって ソファがあって 窓を赤い色した分厚いカーテンが覆ってて 本棚があって本が数冊あって ただそれだけです。 なんだ 何もないじゃないか と彼は思いました なんで こんな何でもない部屋を 彼女は隠したがってたんだろう と彼は思いました。 「きっと こっそり 秘密の日記でも書いてるんじゃないの」 と女友達は本棚の本をペラペラ捲っていましたが そんな秘密の日記帳とかは見付からなかったようで つまらなさそうな顔をしています。 「何にもないじゃないの ああ つまんないの」と女友達はさっさと部屋から出ます 彼も部屋から出ようとしたのですが 何か 変だと思いました。 なあ 何か変だと思わないか? 「変って 何よ 何の変哲もない 普通の部屋じゃないの」 うん 普通の部屋なのはそうなんだけれども。 「普通の部屋なら 別に変なところなんてないじゃない」 うん でも なんで地下室なのに 窓があるんだろう って。 「そういわれると変ねえ」 と女友達は 部屋の中に戻ると 窓の方に歩いていって カーテンをバッと開きました。 窓の外から薄明かりが差してきて 女友達の顔を青白く照らします。女友達は しばらくジッと窓の外を眺めていましたが ヒュッと息を呑み込むと すごい勢いでカーテンを閉めました。 ねえ 何か見えた?と彼が聞いても 女友達は青白い顔をしたまま黙っていて ようやく口をきいたと思ったら 「知らない方がいいよ」と云うのです。 結局女友達は 何を見たのか教えてくれず 青白い顔したまま帰ってしまいました。 気になった彼は一人で地下室に行こうと思ったけれども 「やあ 予想よりもずっと早く用が片づいちゃって」と彼女が帰ってきたので 地下室に行くことが出来ません。 まあ そのうち 何を見たのかを女友達に教えてもらおう と彼は思ったのですが 彼は教えてもらうことが出来ませんでした。 彼の女友達は その日を境に 物狂いになってしまったからです。
by khem_mark
| 2004-05-18 02:25
| 彼女のはなし
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