どつぷり首まで浸かつてしまい 僕は 何処にもいけません
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久冨さんは 僕の知り合いで 近所の川の 橋の下に住む おもらいさん です。 今日 僕 久冨さんのところに遊びに行くとですよ 久冨さん 焚き火の傍に腰掛けて 蟹を炙って食べていて 「やあ 佐々木(仮名)くんじゃあないか 君もこっちに来て 蟹を食べるといい 知り合いの漁師さんから たくさん蟹をもらっちゃって 一人じゃ食べきれないからさあ」 などと 傍ら 取り出し 見せてくれたのは 籠一杯の 蟹でございます。 うわあ まだ 生きてますね 脚が ワシャワシャ蠢いてますね 「うん この蟹 身は痩せててあんまり食いではないんだけれど なんといっても ミソがすごい ほら まずは一つ 食べてごらんよ」 と 久冨さんに手渡された 焼き立ての蟹 丸々とした 握りこぶしくらいの大きさで 細い足が申し訳程度に生えています。 ねえ 久冨さん この蟹 あんまり見たことないけれど なんですか 毛蟹とかズワイガニとかとは 明らかに違いますが 「ああ そりゃそうだろう この蟹は 結構 特別な蟹で 市場にも出ないし 地元でも食用にされるってのは聞かないし こうして食べれる機会は そんなにないだろうなあ」 え 食用じゃあ ないんですか 「大丈夫 現に 食べてるじゃないか さあ 食べるといいよ 甲羅をはがして 熱々のミソを啜りたまえ」 あ じゃあ いただきます うん 美味いですね 毛蟹なんかのミソよりも 味が濃くて 「だろう 年に一度しか味わえないんだから もっと堪能するといいよ」 年に 一度 ですか? 「うん 知り合いの漁師さんから分けてもらえるのが 年に一度っきりなんだ というべきか 年に一度しか この蟹は手に入らない」 って どう云うことです 「ええっと 漁師さんの云うことには その地域に昔っから伝わってる 年に一回の神事的な漁があるんだけれども その漁で 副次的に この蟹が手に入る で 漁師さんたちは だれもこの蟹を食べようなんてしないから どうせ捨てるくらいなら って 俺が貰ってるってわけさ」 そんな蟹 ほんとに 食べていいんですか? 「いいに決まっているよ こんな美味いもの 捨てるなんてどうかしているよ さあ まだいっぱい蟹が残ってるよ 早く 食べてしまおう」 でも 珍しい蟹なんですよね カブトガニみたいな 天然記念物じゃないですよね そんなの 食べるわけには 「カブトガニだって 食べることはできるよ それに この蟹 種類的には珍しくも何ともない 全国の海にいるよ ただ 大きさが珍しい こんな コブシ大の大きさになるのは この近辺だけらしいね」 全国の海に いるんですか その割には 見たことないですよ 「まあ 普段はあんまり見ないだろうなあ この蟹は カクレガニの一種で オオシロピンノ という」 聞いたことないですね 「でも なんどか見たことはあると思うよ ほら アレだ アサリとか ハマグリの中に 時々 小さな蟹が寄生して いるじゃないか アレが オオシロピンノ」 ああ アレですか アレなら 見たことあります 「うん 普通 大きくなっても1.5cmくらいだから こんなに大きくなるのは 珍しい」 へえ あの蟹 食べたことなかったけれど こんな味がしたんですねえ いやあ 美味い 美味い 「だろう さあ もっと 食べるといい」 あ ところで久冨さん オオシロピンノって 貝とかの中に寄生して生きてる蟹ですよねえ 「そうだよ」 その蟹が こんなに大きくなったってことは すごく大きい貝に寄生してたんですよね 「いや 貝に寄生してたわけじゃ ないんだけれどね」 え じゃあ この蟹 なんに寄生して こんな 大きくなったんです? 「………」 久冨さん? 黙らないでくださいよ 「知らないほうがいいよ じゃないと 食べる気がなくなるから」 ちょッ! ちょっと 久冨さん?!
by khem_mark
| 2004-01-07 16:00
| 久冨さん
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Comments(1)
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