どつぷり首まで浸かつてしまい 僕は 何処にもいけません
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出張で 何日か前から遠い他県にお出かけ中の彼女からお電話がありまして。 僕 受話器の向こう 彼女に云いました。 ああ そう云えば どうでもいい話なんだけれども 昨日のお昼時 君のことを見たよ 街の 横断歩道のところで。 もちろん 君が出張中で 昨日 この街にいないことは 知ってるよ 日帰りできるような距離じゃない 遠い遠い場所にいるはずの君が 昨日 この街 あの場所にいるわけがない だとしたら ただ単に 君によく似た人をみただけだったのかもしれないし 見間違いだったのかもしれない けれど 僕は アレは 君だったと断言できる 僕は 君をみた。 僕が 他の誰かと君を見間違えるわけがない 見覚えのある 君がお気に入りだって云ってたプリーツスカート 昨日 着ていたね あの柄 よく憶えているよ でも ビックリしたよ 昨日 君がいた場所 明らかに物理法則を無視していた 横断歩道の上空10メートル さかさまになって静止 僕のことを ジッと見ていたね 僕は 自分の目を疑ったよ 僕が君のことを思いすぎて とうとう君のマボロシを視るまでになったか と。 けれども 僕の目だけに視える僕だけのマボロシって訳じゃあなかった 僕の他にも 空中で静止してる君のこと 視えた人もいた 僕とその人は二人して ポカンと呆気にとられつつ 君のことを視ていたよ まあ 君が横断歩道の上空にいたのは30秒かそこら まばたきした間に 消えてなくなってたよ。 アレは一体 なんだったんだろうねえ 君 身におぼえはあるかい? 受話器の向こう 彼女が云いました。 『ああ それはきっと 私の生霊なんだと思う』 生霊? 『うん。 あなたの事を思って想って思念いすぎて 私の身体からぬけだした 心の一欠けら』 あ ああ そりゃ ありがとう 『昨日のお昼時だって云ったわねえ うん 憶えてる。 私 お昼を食べてたら 急に あなたの事が頭の中 はっきり見えた 遠眼鏡で覗いたみたく はっきり。 私の生霊が あなたの事を視たせいだと思うよ』 うえ そ そうですか 『聞いた話によると 生霊ってのは その人を思う力が強いほど はっきり出てくるようなのよ その人を愛しいと思うにせよ 殺したいほど憎いと思うにせよ。 愛と憎は同一感情の両極端だって云うけれど 本当の事ねえ』 え 何の話ですか 『昨日の私の生霊は あなたを愛しいと思うあまりに発現。 今の私の生霊は あなたを憎いと思うあまりに発動。 今 あなたの後姿が はっきりと頭の中に見えるわ』 だから なんの 「『あなた 昨日 横断歩道のところで 誰と一緒にいたの? あんなに楽しそうに 腕なんか組んでイチャイチャしちゃって 私以外の女と ああ憎い 殺してやろうかしら』」 受話器の向こうと僕の真後ろ 彼女の音声 ステレオに聞こえ(溶暗)
by khem_mark
| 2005-06-26 14:36
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