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どつぷり首まで浸かつてしまい 僕は 何処にもいけません
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近頃 僕の日課といえばです 毎日 夕暮時 ふらふら散歩をすることです。 最近のことですが 僕の散歩のコースに入っている児童公園で スミエさんという女の子と仲良くなりました。 スミエさんは いつも お祖父さんと思われる男の人に連れられていて それはそれは 仲睦まじげであります。 けれどもスミエさんはお祖父さんのことを『マツオ』だなんて呼び捨てにしていて 「マツオ!マツオ!ほら 佐々木(仮名)さんが向こう からくるよ!」 なんてことを云うのです。 僕 スミエさんに云ったのです 「おじいさんのことを『マツオ』だなんて 呼び捨てにしてはいけませんよ お年寄りは 敬うものなのです」 でも スミエさんは 「昔っから『マツオ』って呼んでるんだもの いまさら ほかの名前でなんて 呼べません」 だなんて お澄まし顔で どこ吹く風です。 いつもベンチに腰掛けてるマツオさんに 僕 なにか云おうと思ったけれど マツオさんはマツオさんで 呼び捨てにされてもニコニコしてるし 他所様の家庭の事情に あれこれ口を出すというのはアレだなあ と思ったので 僕 マツオさんには何も云わなかったのだけれども。 さて 今日の僕の事と云えばです なんだかとってものっぴきならいことになってしまい どうしようもなくて 気分も鬱々として 身体の一部もズキズキ痛むし 最悪の気分でいたのですが いつもどおりの散歩でもすれば 少しは気分の転換になるんじゃないかなあと思い 薄暗い空の下 出かけたのです。 どこをどう歩いたかは知りませんが いつのまにか児童公園につきました この夕間暮れの中 いつもどおりにマツオさんはベンチに腰掛けて その前 スミエさんが遊んでいます。いつもどおりの見慣れた風景ではあるのですが 何か違います 何か違うなあと思ったら マツオさん 膝の上 黒い 変な箱を置いていて 抱えるみたく さも大事な風に持っています。 「やあ 佐々木(仮名)君 こんにちは」 だなんて云って いつもとおんなじ風にニコニコ顔です。 僕 マツオさんに 「その箱 なんですか」 って聞きました そしたらですよ なぜかマツオさん それまでのニコニコ顔を 急にギョッとさせたのです。 「佐々木(仮名)君 キミ これが この箱が 視えるのかい?!」 なんてことを 僕の目の前 箱を持ち上げ 両手で差し出しながら云うのです。 見えるも何も 箱は僕の目の前にあって それを みえるのかい? だなんて もしかしたらマツオさん 少し ボケてきているんじゃないかなあ って 僕の怪訝に思ったのですが 僕のそんな視線に気付いたのかマツオさん 取り繕うような笑顔をして云いました。 「いやいや なんでもないんですよ ちょっとだけ 取り乱しちゃって」 どうしたんですか その箱が なにか したんですか。 「いや なにもしないんだけれど 佐々木(仮名)君 キミ ほんとうに この箱が視えるんだよねえ」 当たり前じゃないですか そこにあるのに 見えないほうがおかしいです こんな風に 触ることもできますよ。 「危ない!気軽に触ってはいけない もし おかしく触ったら 仕掛けが作動して ほら こんな風に」 うわあ なんか 箱の中から ギザギザの歯車が一杯 剥き出しになって 出てきましたね。 「うん このたくさんの歯車に巻き込まれたら キミの手なんか 一瞬で 食いちぎられてしまうよ」 物騒ですねえ。 「ああ 危険な箱だけれども 佐々木(仮名)君 キミにこの箱が見えるというのなら キミにこの箱を あげなくちゃならない 受取ってくれたまえ」 いきなりそんなこと云われても。なんで僕が そんな物騒な箱 貰わなきゃならないんです。 「貰っておいた方がいいよ それがキミのためでもある この箱が視えるということは そう云うことなんだなあ」 そう云うことって どう云うことなんです。 「佐々木(仮名)君は 今日 初めてこの箱に気がついたようだけれど 私は 一番最初にキミに会ったときから この箱を こんな風に持っていたよ」 まさか 今まで 全然見えませんでしたよ。 「本当だよ 今 キミに この箱が視えるということは キミは今 相当に 切羽詰っているか のっぴきならない状況にある ということだ そうでしょう? 私も そうだった」 一体 どう云うことですか。 「もう ずっと昔の事になるけれど 私がまだ若くて 少年だった頃のこと ちょっとした事から 箱を抱えた見知らぬ男に声かけた事があったんだ そしたらその男が この箱を 私にくれたんだ 男は私に こう教えてくれたよ 『君に この箱が視えるってことは この箱を使う覚悟があるってことさ つまりは 箱に選ばれたんだ この箱を使えば 君の直面している困難を解決してくれること請け合いだ 君が ひとつの代償を支払えばだけれども この箱は ソレと引き替えに なんでも 願い事を 一つだけ叶えてくれるんだ』 ってね」 願い事って 魔法のランプみたいに ですか 「うん 箱の中にはね ちょっと違うけれど ランプの精みたいなのがいるんだよ その時の私は もう どうしていいかわからないほどに困っていてね 縋れるものなら藁でも葦でも縋りたかった だから 男に教えてもらったとおりにして 代償を支払って 願いを叶えてもらったんだ」 なんだか 信じられませんが 「佐々木(仮名)君 キミ 私とスミエ どんなふうに見える?」 え そりゃあ あの マツオさんがお祖父さんで スミエさんがお孫さん じゃ ないのですか? 「うん 私の叶えてもらった願い事はこうだ 『私のちょっとした不注意で死なせてしまった私の姉を甦らせること』 その願い事は 箱によって叶えられたけれども 何をどう 願い間違えたのか ほら 私の姉のスミエは 甦った時の幼い少女の姿のままで もう 何十年も あのまま なんだよ」 スミエさんが マツオさんのお姉さんだなんて 信じかねます マツオさん 僕に 嘘を吐いているのではないのですか 「キミに嘘を吐いても仕方ないじゃないじゃないかねえ でね 箱の中にいる ランプの精だか魔物だか知れないけれど ソレが願いを叶えてくれるんだ けれども それは いつだって血肉に飢えている 願いを叶えるための代償 箱の中のソレを呼び出す為に必要なもの っていうのは つまるところ 自分の身体の一部を捧げることなんだ 箱に仕組まれてるギザギザの歯車でもって 箱に 自分の身体を 喰わせるのさ」 と マツオさんは自分のズボンをズリ上げると 僕に 義足の右足を見せてくれました。 ** 「この箱を 使うかどうかは 君自身が決めることだよ」 と マツオさんから箱をもらった僕は 半信半疑ならがらも 自分の部屋に持って帰ります。 机の上に置かれた箱をしばらく眺め どうしたものかと考えていたのですが 結局 この箱を使ってみることにしました マツオさんに嘘を教えられて 騙されているとしても 僕は この箱を 使わざるを得ないのであります なにしろ 今の僕はのっぴきならなくて 縋れるものなら 藁でも葦でも縋りたい。 僕の のっぴきならなくなった事の顛末とは こうです。 僕の近所には 僕の親類が住んでいて その親類には ミドリさんという13才の娘さんがいます。 ミドリさんのご両親が夫婦水入らずのちょっとした小旅行に出かけたいって事で 僕 ミドリさんを二日間ほど預かることになったのです。 こんなチャンスを逃す僕じゃあありません いえ 何でもありません ミドリさんと もっと親しい親戚付き合いをしたいと思っていた僕です 一緒にお風呂に入るなどの親善行為などで 和気藹々としたいと思っていたのであります。 けれどもミドリさんは僕に冷たくて 一緒にお風呂に入ろう!って云っても 「近づくなバカ 死ね」 だなんて 随分とそっけないのあります。 これじゃあいけません こうなったら 力ずくの実力行使で無理やりに いえ 何でもありません もっとミドリさんのことを知って 仲良しにならなけりゃいけません 世間話にでも興じて ミドリさん情報を集めるのです。 僕 気さくな雰囲気でミドリさんに話し掛けます けれどもミドリさんはなんだか僕を無視気味で 一方通行のぎこちない会話であったのですが 少しずつ ミドリさんの興味がありそうな話題を探り探りし 誘導していって だんだんに会話も弾んできます。 ミドリさんとの会話で得た情報に 最近 ミドリさん フルートを習い始めたそうで 今 それが楽しくて仕方がないそうなのです 「まだ うまく演奏できないんだけれど ね」 と上目遣いにペロリと舌を出す仕草をしてみせて ソレが可愛いったらありゃしません。 僕 いてもたってもいられなくなって にじり寄りながらミドリさんに云ったのです。 「ミ ミドリさん あなたの小さい 可愛らしい唇で 奏でてくれませんか 僕の 肉のフルートを!」 「キャア!」 僕 ミドリさんと仲良くしようと思っただけなのに けれどもミドリさんはつれなくて 僕を食い千切るくらいの勢いで 噛み付いてきたのです ギャア! 憎悪剥き出しの目もランランに 僕に噛み付いたままのミドリさんを離さんと ミドリさんを突き飛ばしたのです そしたらですよ ミドリさん もんどりうってゴロンと転がり ガツンと音させ床に頭をぶつけ それっきりです ぐったりして 身動き一つ 呼吸の一つもしないのです。 明日のお昼には ミドリさんのご両親が帰ってきます そしたら どうすることもできません ミドリさんはこの状態でありますし 僕にはミドリさんに噛みつかれた痕があります 噛み痕の場所が場所だけに 言い逃れはできません なので 明日の昼までには ミドリさんを どうにかしなければならないのでありました。 そんな訳で マツオさんから貰った箱を たとえそれが眉唾ものであったとしても 試して見なければならないのです。 部屋の隅に倒れたままのミドリさんを視認し 覚悟を決めます けれども僕 マツオさんから 箱の使い方ってのを詳しく聞いていなかったものですから どんなふうにしたらいいのか よくわからなかったのだけれども とりあえず 箱の蓋を外してみようと 箱に手を伸ばしたのです そしたらですよ 箱に手を触れたその刹那 箱の中からギザギザのローラーみたいな歯車の塊が飛び出してきて 僕の手首を ギュルギュル音をさせながら 一度に丸ごと呑み込んだのです。 骨がビギビギ砕かれて 肉筋がムリムリに引き伸ばされて 僕の手首から先が あっという間に 歯車に巻き込まれて 喰い千切られました 本当にアッと云う間でありましたから ビックリして 痛みがくるまで少しの間がありましたが でもこりゃ 痛いと思う 痛いはずで 痛くなきゃおかしい 痛い 痛い痛い痛い ギャア! そんなふうに僕が悶絶しかけてる間にも 箱の中の歯車はギャリギャリ回転し続け そのうちに 箱の中から血色の煙がモウモウと吹き出てきて部屋中に充満します すごく煙くて噎せる上に 目の前のものも 何も見えやしません 痛いながらも こりゃ困ったなあ と思ってたらですよ ガガガガガガッ ガギギギギギャォン!って ひどく甲高い音をたてて歯車の回転が停止しました するとです 部屋中に充満してた煙が 箱の真上 一つところにモコモコ収斂していって ほんの瞬きする間に ボンヤリ 影法師みたいな人型になったのです。 そのボンヤリした人型が 「呼んだのは お前か」 だなんて くぐもる声で僕に云うのです。 僕 まさか こんなのが出てくるなんて想像もしてなくて 痛みも忘れるくらいビックリしてしまい 「う わ あ あの あ」 だなんて しどろもどろであります そんな僕に 「呼んだのは お前か ならば 望みを云うといい その願いを 叶えてやろう」 だなんて 影法師が云うのです。 「あ あの! あの! 本当に 願い事を叶えてくれるんですか! 本当ですか!」 「我が身を呼び出した者の 呼び出すために自らの血肉を捧げた者の 願いを一つだけ ソレがなんであろうと 叶える お前の願いは なんだ 望みを云うといい」 どうやらマツオさんの云ってた 願いを一つだけ叶えてくれるってのは本当のことのようで これでミドリさんを生き返らせてもらえば 一件落着であります けれども僕 これからの一生を右手無しで過ごすのは嫌だなあと思いましたし せっかく願いを叶えてくれるというのです よくよく考えて 一番いいと思われるのを 叶えてもらわねばなりません ソレには まず 定番の アレです。 「あ あの 一つ 聞いていいですか 『願い事を百回 叶えてください』って願い事じゃあ どうですか 駄目ですよねえ やっぱり 駄目ですよねえ」 「そんなことでいいのなら 簡単な事だ 願い事は何でも 一つだけ 叶える お前の望みは 『願い事を百回 叶える』でいいのか」 「ええ まさか 嘘 本当に いいんですかい じゃじゃ じゃあ 『願い事を千回 叶えてください』でも!でも!」 「簡単な事だ それが 百回でも 千回でも 万回でも だ 願い事を云え 望みは何だ」 「わあ わあ もしかして 『願い事を 永遠にずっと 叶えつづけてください』でも! でも!」 「同じ事だ 百回でも 千回でも 万回でも 永遠でも だ 願い事を云え 望みは何だ」 「本当に 本当にいいんですね じゃあ じゃあ願い事をいいますよ! 僕の願い事は 『僕の願い事を永遠に叶えつづけてください』 です!」 「お前の叶えてほしい一つの願いは 『願い事を永遠に叶えつづけて欲しい』でいいのだな」 「はい!それでいいです!それでおねがいします!おねがいします!」 やりました 大成功です 僕の願い事は 無制限に叶えつづけられるのです 何度でも願いを叶えてもらえるのです ミドリさんを生き返らせてももらえるし 僕のなくなった右手を戻すことも ミドリさんを僕の云うままにできることも アレですよ 億万長者とかも簡単なことなのです。 「では お前の願いを叶えよう お前の一つの願い事は これから! どんなことがあろうと! 永遠に! 無限に! 叶えつづけられる!」 影法師は そう云いながら 現れたときとは逆に だんだん拡散していって モクモク 部屋中に血色の煙が充満していって また 何にも見えなくなりました 僕 煙に噎せて息が苦しくて 意識が朦朧となり 少しの間 気絶してしまったようです。 気がついてみると 部屋には煙なんて少しも残ってなくて 僕の目の前 最初に置いたときと同じ状態で 机の上 箱が置かれています。 部屋の隅には 昨日 倒れたときと同じ姿勢でミドリさんが横たわっています ようし まずはミドリさんを生きかえらせて ソレからミドリさんを僕の云うがままにできるようにして イヒヒヒヒ お楽しみはこれからだ と思ったらですよ なんだか変です 何かおかしいなあと思ったら 右手が痛くありません 痛くないと思ったらですよ 僕の右手 全然千切れてなんかいなくて 元通りになっています こりゃあ変だと思ったけれど さては あの願い事ってのは 僕の思ったことを即座に叶えてくれるもので 僕が痛いと思ったその瞬間に 勝手に願いを叶えてくれたのかもしれないぞ 独り合点します 何はともあれ ミドリさんを 生きかえらせて 話はそれからです。 僕 『ミドリさん 生き返れ!』 と念じてみたけれど ミドリさんはピクリともしなくて やっぱり声に出して願ってみないと駄目なのかなあ と 「ミドリさん 生き返れ!」と 声に出してみようとしましたが 駄目です 何でか 声がでません おかしい と思い ミドリさんに近づこうとしましたが 僕の身体は 僕の意思に反して 全然動こうとしません どうしたことでしょう。 なんでかなあ と 僕 一生懸命考えていたのです そしたらですよ 今度は 勝手に 身体が動き出しました 箱に向かって ゆっくりと 右手を伸ばし出したのです。 箱に触れるか触れないかまでの距離に手が近づくと 箱の中から歯車の塊が飛び出てきて 僕の手首から先を呑みこんで 一瞬で噛み砕きました ギャア!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い! 僕が激痛で悶絶していると またもや箱の中から血色の煙が発生して部屋中に充満し それが収斂して人型の影法師になると 「呼んだのは お前か」 だなんて 先刻と同じことを云うのです。ソレに反応して つい先刻まで出なかった僕の声が 勝手に 「う わ あ あの あ」 と反応するのです これじゃ まるで 先刻とまるでおんなじであります。 「呼んだのは お前か ならば 望みを云うといい その願いを 叶えてやろう」 「あ あの! あの! 本当に 願い事を叶えてくれるんですか! 本当ですか!」 「我が身を呼び出した者の 呼び出すために自らの血肉を捧げた者の 願いを一つだけ ソレがなんであろうと 叶える お前の願いは なんだ 望みを云うといい」 「あ あの 一つ 聞いていいですか 『願い事を百回 叶えてください』って願い事じゃあ どうですか 駄目ですよねえ やっぱり 駄目ですよねえ」 「そんなことでいいのなら 簡単な事だ 願い事は何でも 一つだけ 叶える お前の望みは 『願い事を百回 叶える』でいいのか」 「ええ まさか 嘘 本当に いいんですかい じゃじゃ じゃあ 『願い事を千回 叶えてください』でも!でも!」 「簡単な事だ それが 百回でも 千回でも 万回でも だ 願い事を云え 望みは何だ」 「わあ わあ もしかして 『願い事を 永遠にずっと 叶えつづけてください』でも! でも!」 「同じ事だ 百回でも 千回でも 万回でも 永遠でも だ 願い事を云え 望みは何だ」 「本当に 本当にいいんですね じゃあ じゃあ願い事をいいますよ! 僕の願い事は 『僕の願い事を永遠に叶えつづけてください』 です!」 「お前の叶えてほしい一つの願いは 『願い事を永遠に叶えつづけて欲しい』でいいのだな」 「はい!それでいいです!それでおねがいします!おねがいします!」 「では お前の願いを叶えよう お前の一つの願い事は これから! どんなことがあろうと! 永遠に! 無限に! 叶えつづけられる!」 僕の意思を蚊帳の外において リプレイでも見るみたいにして 僕の身体は先刻までの影法師との会話を繰り返します ソレが終わると また影法師が拡散して部屋中に煙が充満して 僕は息苦しさのあまり 気絶します。 気絶から醒めてみると 部屋の中は全然かわりなくて 僕の目の前 同じように箱が置かれています。 僕 なんとか身動きしてみようとしたけれど全然だめで またもや 僕の身体は勝手に動き出し 箱に手を突っ込んで また歯車に噛み砕かれます 痛いイタイイタイ!!! 手が噛み砕かれると 三度 影法師が現れて 「呼んだのは お前か」 と云います。 「う わ あ あの あ」 「呼んだのは お前か ならば 望みを云うといい その願いを 叶えてやろう」 「あ あの! あの! 本当に 願い事を叶えてくれるんですか! 本当ですか!」 「我が身を呼び出した者の 呼び出すために自らの血肉を捧げた者の 願いを一つだけ ソレがなんであろうと 叶える お前の願いは なんだ 望みを云うといい」 「あ あの 一つ 聞いていいですか 『願い事を百回 叶えてください』って願い事じゃあ どうですか 駄目ですよねえ やっぱり 駄目ですよねえ」 「そんなことでいいのなら 簡単な事だ 願い事は何でも 一つだけ 叶える お前の望みは 『願い事を百回 叶える』でいいのか」 「ええ まさか 嘘 本当に いいんですかい じゃじゃ じゃあ 『願い事を千回 叶えてください』でも!でも!」 「簡単な事だ それが 百回でも 千回でも 万回でも だ 願い事を云え 望みは何だ」 「わあ わあ もしかして 『願い事を 永遠にずっと 叶えつづけてください』でも! でも!」 「同じ事だ 百回でも 千回でも 万回でも 永遠でも だ 願い事を云え 望みは何だ」 「本当に 本当にいいんですね じゃあ じゃあ願い事をいいますよ! 僕の願い事は 『僕の願い事を永遠に叶えつづけてください』 です!」 「お前の叶えてほしい一つの願いは 『願い事を永遠に叶えつづけて欲しい』でいいのだな」 僕 不意に気がつきました もしかしたらですよ 僕の叶えられた願い事 『願い事を永遠に叶えつづけてください』ってのはですよ 僕の願ったことを何個でも叶えてくれるんじゃなくて つまり 僕の『願い事を永遠に叶えつづけてください』って一つの願い事だけを 繰り返し繰り返し叶えてくれてるわけで ということは 巻き戻しては再生を 繰り返しているってことじゃあないかなあ。 「はい!それでいいです!それでおねがいします!おねがいします!」 「では お前の願いを叶えよう お前の一つの願い事は これから! どんなことがあろうと! 永遠に! 無限に! 叶えつづけられる!」 影法師は また煙になって拡散し 僕は煙で噎せて 息苦しくて気絶します 気絶から醒めると 僕の目の前 同じように箱が置かれ 部屋の隅 ミドリさんが倒れています 僕は 僕の意思では身動きの一つもできません つまりは また 巻き戻されたのです。 また 僕の身体が勝手に動いて 箱に手を伸ばし出しました。 『お前の一つの願い事は これから! どんなことがあろうと! 永遠に! 無限に! 叶えつづけられる!』って声が 頭の中で乱反響します。 僕 声にならない断末魔をあげながら 箱の中の歯車に手を突っ込みました。
by khem_mark
| 2003-05-05 02:19
| ミドリさん
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