どつぷり首まで浸かつてしまい 僕は 何処にもいけません
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町のハズレに廃棄されている赤錆た鉄骨塔の真下には一人の年老いた浮浪者が住み着いています。名前は知りません。僕はコッソリ彼に鉄骨さんというニックネームを付けました。 その鉄骨塔のある辺りは僕の散歩のコースにあたり、よく夕暮れ時にソコを通りかかると鉄骨さんは野良犬なんかを優しく撫で、いい感じに嗄れた声で外国の歌を唄っているのを何度か聞いたことがあります。 鉄骨さんは、優しい眼をしていましたが、気が違っているらしくって、鉄骨塔の真下で耳障りな雑音しか聞こえないガラクタのラジオに熱心に耳を傾け何度も頷いたりしています。時にラジオに雄弁に語りかけます。涙を流しながらラジオを激しく揺さぶったりもします。子供の頭を優しく撫でるようにラジオの表面を愛撫したりもします。散歩の途中、見ました。 今日、夕暮れ時、散歩の途中、鉄骨塔の辺り、子供達が幾人かタムロしていて、子供達の真ん中に、鉄骨さんがダラリと寝そべっています。 子供達は、僕に気付くと、可愛らしい手を振り上げて、一斉に微笑みました、血にまみれた手を振り上げて、微笑みました。僕もつられて笑い、近づこうと思ったけれど、その前に、子供達は、鉄骨さんのラジオを持ち上げ、大時代がかった重いラジオを皆で持ち上げ、せーので地面に叩き付けた、鉄骨さんの頭の辺り。 ラジオが、鉄骨さんの頭に叩き付けられ、グシャリと音のする直前、鉄骨さんの足がビクリと動いた風に見えたのは、多分、気のせいです。
by khem_mark
| 2003-05-25 01:52
| 僕の町
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